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「源氏物語」は、今から約千年前、平安時代中期(西暦1000年頃)に、紫式部という女性が著わした物語です。
伝本によって多少の違いはありますが、54帖から成る日本最古の長編小説です。紫式部はダンテよりも300年、シェークスピアよりも600年、ゲーテよりも800年ほど前に、この壮大な物語を書き上げたのです。

「源氏物語」の原本は、現在は存在していません。多くの写本を通して、現代まで伝えられてきました。
その分量は、かな文字で、おおよそ100万文字、22万文節。A4用紙に入力すると、700ページ以上に及びます。登場人物は500人余り、70年間三世代におよぶ時の流れを追っています。日本の古い言葉とその時代特有の文体で書かれ、800首近い和歌が挿入された歌物語、典型的な王朝文学です。

当時と今とでは、慣習や時代背景、ものの考え方などが大きく異なるため、難解な部分も多く、現代人が注釈書なしで原文を読むのは、ほとんど不可能です。ですが、幸いにも、多くの手引き書や研究書籍が遺されているので、口語文に慣れた私たちも、多少の努力を払えば、この作品を原文で楽しむことができます。

物語としての展開の巧みさ、登場人物の細かな心理描写、時代を観る洞察力、鋭い感受性と美意識で表現された美しい文章…。どの点を取っても、日本の古典文学を代表する最高傑作と呼ぶのにふさわしいクオリティを誇っています。
平安時代中期の小説には珍しく、徹底した写実的手法で描かれているので、美しい情景や高揚していく心理描写、壮大なテーマなどが、私たちの身近で起きているような現実感があり、千年を経た今もなお、現代人の心を深く捉え、魅了し続けています。

まさに、「古典の中の古典」です。



千年の間、これほどまでに多くの学者や知識人、愛好家たちによって研究されてきた日本古典文学は、他に類がないと言えましょう。
時代によって、作品の読み方や解釈の仕方は、かなり変化してきています。人の思考は、その人の生きた時代に少なからず影響されるということだと思います。
「源氏物語」がどのように読まれてきたかを探ることによって、思想、慣習、政情など、時代の変遷を知ることもでき、興味深いものがあります。

時には発禁状態という憂き目にも遭いながら、注目を浴び続け、生き長らえてきた長寿の物語ならではの、派生的に生まれた作品も多く残されています。
今なお、絵画、音楽、能、映画・ドラマ、舞台芸術、漫画・アニメ、文学作品、香道、花道等々、さまざまなジャンルの文化に多大な影響を与え続けているのです。



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